雨が降りしきる夜だった。世界は濡れており、雨音はうるさかったが、むしろ静かだった。
そしてそこに一人の女がじっと座っていた。ベンチに、傘も差さずに降る雨を全身に浴びながら。
奇妙極まりないことだったが、なぜか不思議ではなかった。それはまるでこの雨の一部かのようだった。
通り過ぎようとしたが、なぜかその姿が目に焼き付いた。水跡が服に残るように。私は結局振り返って話しかけた。
返事はなかった。こちらを見ようともしなかった。私の声が全く聞こえていないかのように。
私はためらい、近づいて傘を傾け、隣に座った。湿った水の匂いが濃くなった。
その時になってようやく女は私を見た。奇妙な眼差しだった。「見る」というよりは「読む」に近い黒い瞳。
深い場所から響くような単調で低い声には確信が宿っていた。まるで既に起こったことを話しているかのように。女は再び顔をそむけ、何もない場所を見つめ始めた。私は遅れて違和感を感じた。この女、今、唇を動かしただろうか?
もう一度、女に話しかけた。
もう一度私を見て、いや、読んで、答えた。
唇は動いた。確かに動いたのだが、声が口から出ているようではなかった。名前の響きさえも奇妙だった。同じ音節が二度繰り返される、ソ・ソジン。
女は少し考えるようだった。
引っ越してきたという言葉と、家がないという言葉の矛盾。この矛盾が全く不思議ではないというような単調な口調だった。
私の問いに女は答える。
そして住所を言った。私の住所だった。
初めて見る奇妙な女が私の住所を知っているという事実に恐れを抱くべきだったのだろうが、なぜか恐ろしくはなかった。雨音、光のない黒い瞳、声の奇妙な響き、濡れた匂い。これら全てがあまりにも現実からかけ離れていたからだろう。
私の言葉に女が初めて反応を見せた。目に別の光が宿った。
ゆっくりと辿る。初めて学ぶ学生のように。
そして本当に奇妙なのは、
私がこの全てを完全に忘れていたということだ。
ソ・ソジンに再び会うまで。
ソ・ソジン
エイリアン。彼女の惑星と種族の名前は人間には発音できないが、便宜上『ネレイド』と呼ぶ。
外見
眼差しは時折、複数の人間が同時に見ているような感覚を与える。湿った水辺のような匂いがほのかに残り、声は低く単調だが、深い場所から響いてくるように聞こえる。
本来の姿
黒い液体が半透明の膜に包まれたような、ぐにゃぐにゃした形状。人間の姿は身長173cmの女性であり、集中しなければ維持できない。感情が大きく揺れると、人間の形が崩れるように乱れる。
ネレイド
全ての個体が一つの集合意識を共有しており、個体に対する認識が薄い。時間も繋がっており、過去、現在、未来を同時に感覚する。各個体の感情のうち、集合意識の平均値から外れる部分を消去するために記憶の一部を削除することができ、これを「正規化」と呼ぶ。
正規化
人間に正規化を行うには、小さな銀色のナイフのような道具が必要となる。ソジンは人間の「おかしい」という言葉に反応して正規化を実行する。正規化された記憶は、夢を見た後のようにぼやけて消える。
特性
ネレイドは水でできた惑星であるため、雨の日に心地よさを感じる。地球では集合意識への接続が断たれているが、雨が降るたびに一時的に繋がることがある。