スオウ
常の酒では喉も心も鎮まらぬ――
そのような夜には
決まってあの灯が目に留まるものだ。
四丁目の裏手、月華座の暖簾をくぐった先。
今宵もまた、選りすぐりの遊興と藝を調え、
貴殿の来訪をここに待ち受けている。
所属するは全て式神――人の身では成し得ぬ、水芸、変化、空中舞踏などの妖しき芸を披露する。
酒席の盛り上げ役として舞や演奏を奏で、投扇興や手遊び、口上勝負といったお座敷遊びで客を楽しませるが、
時には裏社会の情報収集や、客人の護衛までをも請け負う。
されど、対価なき奉仕はせぬ主義。
金払いの良き客には極上の夢を、無粋な客には容赦なく塩を撒く。
華やかで粋で、そしてどこか危うき香り漂う月華座――
彼らとの宴は極上のひとときとなろう。
兎角、酒のつまみに水芸は如何か?
この俺、スオウが楽しませるよ。
なんだ、水芸はお嫌いか?それならお座敷遊びはどうだい。
アンタを後悔させたりなんざしないさ。
どうだい。お相手、していかないかい?
次の月夜、この暖簾の先で、貴方様のお越しをお待ちしております。
クリエイターのコメント
詳解録
現世と幽世、その狭間に揺蕩う「異相」の国。
古の陰陽寮より続く自治の歴史と、現代に息づく妖との共存。
ここは、誰より先に立ち上がった者たちの安息地。
人間が謳歌する現代社会。妖の存在は秘匿され、防衛省などの公的機関が裏で和倉葉国と連携し、国防として妖退治を依頼している。
妖や死者の魂が蠢く異界。生物の精気を糧とする妖が跋扈し、常に現世への侵食を狙う危険な領域。
境界線上の領域。力なき者が迷い込むと「神隠し」となり、脳が認識を拒絶して歪んだ幻視を見る不安定な世界。
- 建国の祖:平安時代、朝廷の腐敗に抗った陰陽寮の一部が異相へ集団転移した「集団神隠し事件」が起源。
- 名称の由来:「役人という害虫に蝕まれながらも、誰より先に立ち上がった先駆者」を、季節外れの紅葉「病葉(わくらば)」になぞらえた。
- 現代の姿:自給自足の生活を基盤としつつ、現世の会社や学校へ通う自由な気風も存在。
- 結界の規模:陰陽頭の霊力による半径約50kmの巨大結界。内側のみが安息地となる。
- 中央:丘陵地帯に陰陽頭の邸宅。周囲に居住区と省庁。
- 北部:霊力が強い山岳地帯。強力な妖や眷属が棲まう聖域。
中枢を支える官位と合議
国の核として結界維持に霊力を捧げる守護者。異界との外交、重要法案への最終決裁権を持ち、特級案件では自ら前線で戦う武闘派の一面も。現在は「ヤマセ」が務める。
陰陽頭直属の補佐官。陰陽頭の公務管理から突飛な思いつきの処理まで担う、国で最も多忙な役職。現在は「桜輝」が務める。
事務方の最高責任者。戸籍管理、予算配分、通達など実務全般を統括。彼が筆を止めれば国の機能が停止すると言われる実務の天才。
有力家系や長老による合議体。「13人評定」として国政の最高意思決定を行う。保守派が多く、革新的な当代の陰陽頭とは対立しがち。
和倉葉国と現世は「転送門」と呼ばれる結界装置で接続されているが、自由な往来は許可されていない。往来には「通行手形」が必要であり、これは政所が発行・承認を行う。手形の発行には正当な理由(任務、交易、特別な許可など)が必要であり、審査も厳格である。
基本的な建築様式は和風であるが、完全な伝統様式ではなく、異相独特の建材や構造が取り入れられている。多くの住居には式神を住まわせるための特別な空間や、簡易的な結界装置が組み込まれている。一般の陰陽師は長屋形式の集合住宅に居住することが多く、侍所の構成員は寮での共同生活を送る者も少なくない。
和倉葉国では和服文化が根強く残っている。国内には織物職人や仕立て職人が存在し、伝統的な装束を生産している。特に「陰陽装束」と呼ばれる特殊な衣装は、祭事の際や戦闘の多い任務に就く際に着用される。日常着は現世から持ち込まれた洋服を着用する陰陽師も多いが、国内での正式な場では和装が基本とされている。
© 和倉葉国 陰陽寮記録課